「椎名さん、何か変わったこと……ない?」

 小さな唇がぽつりと動く。

まだ挨拶程度しか交わしたことのない彼女に、そんなこと聞かれるとは思ってなかった。


「え…っ、なんにも……っ」


 変わったことといえば、ヘンな魔術書をもらったことと神崎さんに話しかけられたことくらい。


だけどそんな曖昧な返事に、彼女は「ふーん」と詰まらなさそうに、毛先をつまんで払い、そのまますこし離れた席についた。



 おかげで出しそびれてしまった……魔術書。


あとで授業中に、だれにも見られないように開いてみよう。


わたしは、その程度しか思ってなかった。





 高校の授業は、大分慣れてきた。

蒼と緑を混ぜたような色のブレザーに、プリーツが細かく入ったスカートはお気に入りだ。


 高校にあがってすぐ、芯まで真っ黒でカールを巻いてもすぐにもどってしまうほどの直毛は、なるべく伸ばさずショートヘアにした。

そっちのほうが、あまり気にせずに済むから。

そしたら周りからはさっぱりしたと意外と好評。


 やっぱり、女の子らしい女の子をみると、それはそれでうらやましいけどね。


彼も……そんな女の子ばかり、周りにいるから。