その日の夜は、こわくて本を広げられなかった。

なんで渡されて受け取ってしまったのか、自責に駆られていた。


 逃げるように布団にもぐったら、そのまま寝付いてしまい、結局わたしの学校のカバンのなかに眠ったまま。

翌朝、起きてそんなことも忘れ、いつもみたく支度をしてた。



 教室についてかばんを開いた瞬間、思い出す。

分厚いあの古びた魔術書が、存在感をはなつように教科書とノートの間に挟まっている。


「うげ……」


 思わずため息をついたときだ。


「椎名さん」

「うっわぁぁぁああっ!!」


 背後から声をかけられ、心臓がとびでるかと思うくらい飛び跳ねるように驚いてしまった。

その音量に、教室中の視線をかき集めてしまう。


「………」

 声をかけてきたのは、先日やってきた季節外れの転校生だった。

色素の薄い長い髪が、湿気を含んだ風に撫でられてもふわりと宙を舞う。


 肌も昨日の魔女さんくらい白くて、小さな顔を引き立たせるようだ。

まるで健康的なわたしとは、相反するかのように。


「か、神崎さん…っ!な、なにか用かしらっ?」


 引きつったように笑って見せた。


 神崎さんはあまり表情を顔に出さない。

笑っているところも、怒っているところも、困っているところも。


まるで全てを知っているかのように、わたしたちを見つめる。