目を覚ました兄の意識レベルは、まだ完全には回復していない。



「久しぶりだね」



女の声。



兄はまだ少しぼやけている目を懸命にこすり、どうにか声の主である女の姿を見ようとした。



じっとみつめているうちに、だんだんとハッキリ見えてきた。



完全に女の姿が兄の目に映った時、兄はハッとした。



「お前…」



コウスケ兄のあたしを見て驚いている表情が、忌々しく、なんとも言えない感情が沸き上がってきた。



怒り?



憎しみ?



恨み?



いや…



そんなものじゃない。



もっと深くて、黒くて、人間の中に存在するあらゆる感情の中で最も底にある感情。



それをなんと表現すればいいのかわからない。