「──べ、綾部!」
「は、はい。」

目を細め、にまっと笑って顎でしゃくる担任と目があって自分の紹介の番なのだと気づく。


番号の最後から紹介していくんだった。


顔が火照り出すのがわかる。私は急いで教卓の前に立つ。40人の顔が自分を注目していて、これは、と尻込みしてしまったが、前を向いて話し出す。


「赤司、潤くんは─」

元2の5。
ブラスバンド部でパーカッション担当。
家は香住ヶ丘のローソンの近く。


さっきはじめて話した赤司は思いのほか話しやすくて助かった。

紹介を終え、ホッとして席につく。
けれど、すぐ赤司による自分の紹介の後、一言言わなくてはならない。


「綾部ゆうです。一年間よろしくお願いします。」

教室の中央に向かって頭を下げる。
パラパラと鳴る拍手のなか最後の紹介が終わり、担任による話がはじまる。

受験のこと、高校生最後の一年のこと、2ヶ月後の体育祭のこと。

ぼんやりと一年が始まるのだなと思った。外では桜が散り葉桜が広がっている。

あと一年の高校生活を想像して目を閉じた。

あと、1年か・・・。

──このときはギケンがクラスメートから、好きな人に変わるとは思いもしなかった。