ギケンとは3年ではじめて同じクラスになった。

ギケン、祇園健司。
だから、縮めてギケン。

はじめて知ったときは名前より名字が印象的だった。ギケンには悪いけど「健司」という名前を知らなかった人間多い。

祇園はインパクトがあるから、しようがない。

でも、みんなは祇園君ではなく、ほどなくギケンと呼び出すようになる。

──4月の一番最初のLHRの授業で自己紹介ならぬ友人紹介なんて恥ずかしいことをさせられたときから、祇園健司はギケンになった。

紹介者の北 謙一郎ことキタケンが命名したことから始まる。

単に縮めてギケン。ちょっと言いにくいけど、耳に残る呼び名は1年間呼ばれ続けることになる。

教卓では、真っ黒に日焼けした坊主頭が思いっきり笑顔で話している。野球部なんだろう。日焼けした肌に白い歯が目立つ。
ギケンのことだけでなく、自分の飼っているマルチーズがいかにかわいいかを力説する野球部のキャッチャーのギャップにクラスはどっと笑った。
キタケンの声はハスキーだ。枯れたような声でまとめる。

「キタケンもギケンもよろしく願います。あっした!」