板書を終えて、席に戻ろうとすると、祇園君がこっちを見ていた。

「・・・綾部さんさ、」
突然声を掛けかれて祇園君を見つめる。長い睫の目で私を見る。


「な、に。」

どもってしまった。顔の温度が上昇する。

何だろう、何かしたっけ、何だろう・・・。
ぐるぐる頭が回る。

「さっき、昼休みに「ギケン、終わったらノートな!」

話している途中に割り込んだ北君の声に顔をしかめた後
「ん。やっぱなんでもない。ごめん。」

「・・・ううん。」

少し笑って黒板に向き直った。祇園君の数式が答に行き着くには、まだかかりそうだ。


席に戻ろうと祇園君の背中の横をとおったとき、メンソールのようなスッとした香りがした。香水ほど強くはないけれど。

席に着いた後、祇園君の背中を見つめた。板書し終え、祇園君がこっちにやってくる。

横をとおるときまで、彼が続きを言ってくれるんじゃないかと思ったけど、授業が終わっても何もなかった。


祇園君にとっては何でもないことなんだろう。

でも私は話をしたいと思う。間近でみた彼の顔を長い睫をまた見たいと思う。彼に期待する自分がいる。


「ゆうは顔にでるからね。」

今の私の顔は──