営業まわりでバンを運転していた僕は、意外な所で彼女を見つけた。
そこはちょっとした桜の名所で、花見客で賑わう公園だった。
――季節が春であれば。
もう今は初夏に差し掛かる頃で、桜など咲いている筈もなく、近所の老人が気紛れに散歩に来る他は、人気はない場所だ。
僕は注意深くナツミを見た。手に何か持っている。
カメラ?
確かにカメラだ。
熱心に淋しくなった桜の枝を撮影している。
一度会ったきりの姿に、妙な懐かしさを感じた。が、声を掛けたい衝動を抑え、尚もナツミを見る。
そのうちナツミはおもむろに携帯電話を取出し、
携帯電話でも桜を撮影したようだった。
なんとなくその桜が僕の手元に届くような気がして、そっとその場を離れた。
そしてその夜。
from:ナツミ
桜って、何か悲しいよね。何か、タローにも見せてあげたかったんだ。
画像付きのシンプルな文面のメールだったが、ナツミが初めて僕をタローと呼んだ。そして初めてナツミの心に触れた気がした。
初めてナツミと出会って、実に一カ月半が経っていた。