カナンへ旅立つ前の晩、俺は母の部屋を訪れた。

いつもと違うのは、俺の隣に、ルシルがいること。


ルシルの親に挨拶することだけ考えて、自分の親のことをすっかり忘れていた。

ほんと俺って、一つのことしか考えられない、不器用代表選手だ。


「やっと来たわね」


母は、二人で現れた俺たちに、驚くどころか、遅すぎる、と一喝した。


「えぇと・・」


俺がしどろもどろになっていると、


「お義母様、マーズレンを私にください!」


って、ルシル、それ、ちょっと違わないかい?


けど、母は、それを聞いて、嬉しそうに目を細めた。


「ちゃんと幸せにできるんだろうね?」


「できます!リリティス様にもきちんとお仕えして、

ちゃんとマーズレンの首にも首輪をつけます!」


え?首輪?!


俺があっけに取られていると、母は、満足そうにうんうんと頷いた。


「夫を操縦するにはちょっとしたコツがいる。手を抜くところはきちんと抜くんだよ」


「はい!!」


俺を無視して進む女の会話。なんだか聞いてはいけないものを聞いてしまったような気がするのは、きのせいだろうか。

母とのしんみりした別れを想像していた俺は、あまりのあっけらかんとした二人の会話に、とうとう入っていけなかった。


やはり、女は恐るべし!