母の部屋から戻る途中、俺は思い切ってルシルの部屋を訪ねた。
こんな夜更けに未婚の女性を訪ねるなんて、非常識もいいところだってわかってるけど、
毎日見ていた彼女の顔を、今日は見れないんだって考えただけで、
なんだか奈落の底にでも落っこちたように暗い気分になる。
母さんのしごきは、愛があるんだ(多分ね)ってことを、ルシルに伝えてあげなきゃ、
って言い訳を作って、俺はルシルの部屋のドアを叩いた。
「まぁ、マーズレン!今日は姫様の部屋にいらっしゃらないから、
忙しいのかと思ってたわ」
ルシルは、目をぱちくりしながら、それでも笑顔を見せてくれて、
俺は、まるで子供のように、はしゃぎたくなる気持ちを何とか抑えた。
「その・・、慣れないこととか、色々あると思って。
俺でよければ相談にのろうかな、なんて思ってさ」
俺の言葉に、ルシルは、ドアから体を離して、部屋に入るよう示した。
「え、でも。こんな時間に君の部屋に入るわけには・・」
「廊下じゃ、話し声がして、周りに迷惑だもの。大丈夫、私、マーズレンのことを信用してるから」