「あ、えと、何でもないです」



(ひゃー。恥ずかしっ)



思わず俯き気味になってしまう。



「変な人。でもさすが、『姫』って言われてるだけはあるな。あんた、学園で一番かわいい」


「は…。ひめ…?」



(それがあたしが呼ばれてるアダナ!?)



「ん、そーだよ。あんた、生徒から『姫』って呼ばれてんだよ」



「何が…言いたいの」



(おかしい。初対面で、しかも有名っぽい人があたしと話してるよ)



安藤 爽は、あたしが顔をしかめているのもお構いなし。


机に座って足を組んで、夕空を眺めてる。



(何考えてんだろー)



「まぁ、すぐに分かるよ。桜井…ゆいサン」


「すぐにって…」



…トクンッ



(何だこれ)


何故だかすっごく、やな予感。


何でだろー?



「これさー」


「え?」



(今度はなに?)






「この夕空、この夕焼けさぁ、
…恋してんだよ。きっと」


「あ…」


「じゃ、またね」



そう言って教室を出て行く安藤 爽をただ見つめているだけのあたし。



(どうして、同じこと言うんだ)



追いかけたくなる衝動を、止めて。



これが


あたしの運命が大きく変わった瞬間だった。





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