『…私でよかったら、お願いします』


「…そうだよね。大好きな人がいるのに付き合ってなんてさ、ごめんね…えっ、なんて言ったの?」


『お願いします』


「ホント、マジ?やったー」


大きな声の稲葉さんにマスターもカウンターから顔を出す。


『稲葉さん、喜びすぎだよ』


「だって、うれしくってさ。でも、無理しないで。先生が好きな蒼ちゃんを俺は好きになったんだから。ゆっくりでいいから俺のことわかってくれれば、それでいいから…」


『…うん。でも、稲葉さんが私のことを思ってくれるのがうれしいから…』


「あのさ、稲葉さんじゃなくて、仁って呼んでよ」


先生のことはもう思わない。


先生のことはもう好きにならない。


稲葉さんの笑顔を見ながら自分の心に言い聞かせた。