「蒼ちゃん、ここ」

マスターの店にはもう稲葉さんがいた。

『ごめんなさい。遅くなっちゃったかなぁ?』

「違うんだよ。俺が、早すぎた。蒼ちゃんに会えると思ったらうれしくて、つい」

「仁チャン、はりきりすぎだぜ。はい、3杯目のコーヒー。蒼衣ちゃんはハーブティーで
いいかい?」


マスターが笑いながら言った。


「おまたせ」

お茶とともにケーキが運ばれた。

『これ?すごーい』

丸い小さなココア色のケーキには、苺とピンク色のクリームがくるくるとかわいくのせられていた。

「もうすぐバレンタインだからショコラケーキで。どうかな?食べてみて」

『いただきます』


…おいしい…


苺のほのかな酸味と甘味、ショコラの苦味が優しく、切ない気持にもさせる。


どうしてだろう。


…先生の味がするんだ…


ケーキが先生の味と言うのはおかしいけれど、なんだかそんな風に思える。


瞳の奥が熱くなり、涙がこみあげてきた。