「思い切って聞くけど、蒼ちゃんて彼氏いないの?」

『いませんよ。でも、好きな人はいます』

「やっぱり…今までその答えが怖くて聞けなかったんだよなー。でも気になる。どんなやつ?」

『優しくて、温かい人で、ゆっくり話す話し方や、声、大きな背中、ちょっと茶色がかっ
た瞳とか、あと、笑い方。突然笑い出す感じだからこっちまで笑っちゃうの。うーん、もっとあるけど、全部好き』


「あのさ、どこが好きじゃなくて、どんな人って聞いたんだけど」


『ごめんなさい、つい…』


「わかったよ。蒼ちゃんが大好きなのはわかったから。でも、告白したりしないの?蒼ち
ゃんなら俺だったら即OKなのに」


『また、稲葉さんそんなこと言って…でも、告白できないんだ。だってもうその人には大切な人がいるんだから』


「奪っちゃえば」


『絶対そんなことできないし、先生はそんな人じゃない』


私はつい声を荒げて答えてしまった。


そんな私を落ち着かせるように稲葉さんは声を落として言った。


「先生って、蒼ちゃんの好きな人って先生だったんだ」


『うん。バスケ部の顧問で、今は担任の先生なの。入学した時から好き…』


「ごめん、奪っちゃえばって、冗談のつもりだったのに…ごめんね…先生って、もう結婚している人なの?」


『…うん…』

私の返事に今度は稲葉さんが強い口調で言った。