小さな喫茶店のような店に入る。
中ではジャズが流れていてなんとなく大人の雰囲気の店だった。
「ここね、昼は喫茶、夜はバーなんだ。マスターも、フットサルのメンバーなんだよ」
唯が私の隣で教えてくれた。
「はーい、圭ちゃん達はノンアルコールね。では、カンパーイ!」
みんな今日の試合のプレーの話で盛り上がっている。
「今日の勝利の女神にプレゼント」
マスターが小さなシュークリームを持って来てくれた。
「かわいい」
お皿にのせられた小さなシュークリームはチョコのコーティングがかかったものや、粉砂
糖がかかったものもあった。
『いただきまーす。おいしい。これって、マスター手作り?』
「おいしいでしょ、これはね、俺作」
隣に座っていた人が言った。
「えー、稲葉さんが?」
唯が驚いた声をあげた。
「唯ちゃん知らなかったっけ?俺、時々ここにケーキ持ってきてるんだけど」
「あれ、稲葉さんが作ってたの。知らなかったよ。ねー、圭ちゃん」
「えー、唯に話してなかったっけ?」
そんな会話のなか、稲葉さんが私に話しかけてきた。
「ごめん、蒼ちゃんだっけ?自己紹介遅れましたー。関南大2年の稲葉仁人(きみと)でーす。でもみんな仁(じん)ちゃんって呼んでます。趣味はフットサルと菓子作り。よろしく」
『えーと、西村蒼衣です。趣味なんてすごいですね。本職かと思っちゃった』
「ほんとはなりたい気持ちもあるんだけどね。パテシエに…でもさ…まぁ、かわいい女の子に食べてもらえるのは幸せですから」
稲葉さんとの会話はとても楽しかった。初めて会ったのにそんな気がしないのはなぜだろう。稲葉さんの持つ温かさからだろうか…
「蒼ちゃん、今度また、新作食べてくれる?」
『うん。喜んで』
「じゃぁ、アドレスいい?」
『いいですよ』
「仁ちゃん、ずるいぞー!」
周りの声を笑い飛ばしながら携帯をうれしそうに手にしている稲葉さんがとても可愛く見えた。