帰る…先生の帰る場所…待っている人…


『そっか、先生、帰らなきゃ。峻太には言っておくから』


自分の気持ちを抑えつけるために、先生の目を見ないで言った。


「いいんだよ。ごめんな、蒼衣。俺さ、タイマーの音、嫌いなんだ。本当は…朝、あの音が聞こえるたび堪らなくなるんだよな…」


先生が静かに言った。でも、何のことを言っているのか私にはわからなかった。


でも、先生が自分の気持ちに無理しているような気がして堪らなかった。


『…早く帰らなきゃ…帰ってあげなくちゃ…先生のこと待ってるよ…』


そう言いかけた時、先生の手が私の頬に優しく触れた。


「ありがとな、蒼衣。でも、いいんだよ。お前も、無理すんな」


気がつくと私は涙がこぼれていた。先生はそっと指で拭ってくれていた。



『先生…せんせい』