「蒼衣、観たいんだろ。行こうぜ」
私が黙ったままでいると峻太は静かにこういった。
「俺じゃ、だめか」
『だめって。だめじゃないよ。一緒に行ってもいいけど、彼女は?』
「行ってもいいか…行きたいじゃなくって、行ってもいいだもんな」
そういって峻太は急に自転車を停めた。
『どうしたの?峻太』
自転車の荷台から降りハンドルを握ったままの峻太が私の横に近づく。
「蒼衣、蒼衣の大切な人って誰なんだよ。付き合っている彼氏よりも大切なやつって誰なんだよ。俺じゃダメなのか。俺は蒼衣の大切な人にはなれないのか?」
『何を言っているの?峻太。自分の言ってることわかってる』
「わかってるよ。だから、俺はお前がずっと前から好きなんだよ」
そう言って峻太は私を抱きしめた。
自転車と前に載せていたバッグが道路に倒れた。