「ふじばやしかけるさん?」

「はい」

「入学おめでとう!クラスは組み分け表で確認してくださいね」


受付の女の人は入学通知葉書の名前と番号を確認し、名簿に丸を付けた。

何てことない儀式でしょ。

結局、これだけだよ、今日一番大切なことって。


「たなかゆめこさん?」

「はい」

「にゅうがく……」


あたしは説明の声も上の空で、手元に広げられた名簿に百地の名を探していた。

でも名前がいっぱいで、分からないよ。

もう来てるのか、まだなのか?

なんか妙に、モモチの響きが気になった。


ママ達の故郷<根来>には、百地姓が凄く多いの。

って、ほとんど百地なんだよね。

そして藤林と戸隠は数件だけ。

それも全部が親戚。

当然、ママのところに来る年賀状には、百地の名が多くて。

『どこで調べたのかしらね、あたしの住所……』

って、ママは懐かしそうに葉書を眺めてるけど、返事は書かない。

『あたしは根来を捨てた身だからね……』

って、寂しそうに笑うだけ。


「ほら、夢子、ちゃんと見てろよ!」


翔の声に我に返った。

翔と二人、昇降口の階段の上から新入生の受付風景を眺めてたんだった。


そうだよ、あたし、王子様を探さなくちゃいけないんだった。