いつもの日常が過ぎていった。
心地良くもあり、何か物足りなくもあり。
でも……、何か大切なことを思い出せない自分が情けない。
秋の文化祭に向けての準備が始まり、九月も半ばに差しかかる頃には、さすがにマイペースなあたしの周りも忙しくなってきた。
「で、同人誌のタイトルは『夢を追いかける風』ってことでいいかな?
中表紙には、夢子の詩、挿絵は美術部の友達に依頼済み、で、目次と……」
紫苑先輩が製本間近のゲラをめくりながら、真面目な顔つきで文化祭で配布予定の同人誌の最終打合せを行っている。
って、言っても三人しかいない文芸部なんだけどね。