車道を突っ切って、細い階段状の山道をグングンと下ると、そこには両側を崖で挟まれた小さな入り江があった。


「これが、我が家のプライベートビーチよ!」


紫苑先輩が入り江の遥か遠く、海の彼方を見つめながら叫んだ。


「別荘からこの海辺までが家の地所なの。

子供の頃は夏になると毎日このビーチで遊んだわ、母と一緒に……」


そう言い置いて、紫苑先輩が駆け出した。

サンダルを脱ぎ捨て、上に羽織ったパーカーを脱ぎ捨て、水しぶきを上げながらどんどん海へと身を沈めていく。

入り江の中央辺りまで泳ぎ着いたところで、紫苑先輩の頭が水面下へと消えた。


それは、一瞬の出来事だった。


水面には水しぶきひとつも上がらない。

紫苑先輩の細い小さな足先が、その後を追うように水面に吸い込まれた。


「紫苑先輩……」


ユタが心細そうな、情けない声を出す。


「見事な潜りだな」

「うん、見事だ」


百地と翔が静かに輪を描く水面を、感心した面持ちでじっと見つめていた。


何分たっただろう……


そろそろ真剣に紫苑先輩の行く末が心配になったころ、水面が再び大きく輪を描き始めた。