文芸部の部室へ入ろうとすると、紫苑先輩ともう一人、誰か部屋にいる気配がした。
低い男の声。
誰?
だだでさえ人見知りのあたしだもの、足がすくんで動けなかった。
「誰かいるみたいだな……」
なんて、ユタは小さい癖に、気は大きい。
っていうか、危険に対して無頓着だ。
白髪交じりの肩まで伸びた髪、チェックのシャツにグレーのスラックスの後ろ姿。
あたし達が扉を開けると、その男はゆっくりと振り向いた。
「やぁ、君達がユタくんと夢子ちゃんだね?」
低いけど張りの有る力強い声、がっちりとした身体付き。
黒い縁の眼鏡の奥には、全てを見通すような鋭い眼光。
誰?
「もしかして、園部小太郎先生ですか?」
ユタが興奮気味に声を上ずらせた。
「いかにも。いつも紫苑がお世話になってるね」
「お……、お世話って……、僕達がお世話されてますです!」
ユタの紅潮する顔を横目で眺めた。
彼がユタの敬愛する推理作家の先生ですか。
ユタ、念願叶って良かったね。