勉強をしなくても進む道があると思っていたスポーツ選手。

だけど、それは表の姿でしかなかったんだ。


裏ではいつもプレッシャーを背負い、常に結果を残さなければいけない。
それができなくなった時、スポーツ選手はもう必要とされなくなる。


それは、私たちよりも遙かに厳しい世界だった。




初めて聞いた、彼の思い。

彼はまだ、この先が真っ暗で、時が来て道がなくなってしまえば、あとは落ちるだけ。
そこから這い上がるのは不可能に限りなく近い。



彼はそんなとてつもなく大きな不安を抱え、暗闇を見つめながら、日々を過ごしている。

今にも押し潰されそうで、逃げ出したくなるようなプレッシャーに、必死で抗っている。




「だけど、今壊れたら、ホントに終わりだよ。」


「ん…。」



そう小さな返事だけして、彼はボールを蹴り続ける。


「あと10分!」


私は思わず叫んでいた。
驚いた彼は、目を大きくして私を見ていた。


「明日も朝練あるんだから、あと10分で終わり。
そしたら、私の最高のマッサージしてあげるよ。」



すると彼は、ニヤッと笑うと、またボールを蹴った。




ドキ…



彼の見たこともない妖艶な笑みに、感じたことのない気持ちを感じた。