「楠 伸哉って知ってるか?」



私は首を振った。

「知らない。」




「どーりで気付かない訳だ。」



私はまたその人に馬鹿にされた。




「あいつだよ。坂木 伸哉。
中2の時から、Jリーグのユースチームが目をつけてた選手。」



私はサッカーは好きだけど、それはJリーグとか日本代表の試合を見て好きになったわけで、中学の選手なんか全く知らなかった。



確かに、1年生の時から力はずば抜けていたけど。
彼がそんなに凄い選手だったなんて…




「俺はあいつには絶対負けたくねぇんだ。

いろんなとこから入ってくる噂を、聞けば聞くほどムカつく奴で。


それで、高校になって初めてみたあいつは、どう見ても凄い選手には見えなかった。

案の定、スライディングついでにちょっとひねっただけで、靱帯を切っただと?
ふざけるな!!

俺はあいつのせいで、いつも影に隠れて、親にも蔑まれてきたんだ。

初めて好きになった女でさえ、あいつの事しか見てなくて。
むしろ俺を憎んでるだろうな。

あいつがこんな風になったのは、俺せいだって。

なぁ?」