「やる気がないなら帰れ。
お前の他にも選手はたくさんいるんだ。

先発じゃなかったら、もうそれで終わりか?
交代で途中からでも使ってもらおうとは思わんのか!

うちの部には、そんなやつの飯代とか宿泊費を払うような余裕はないんだ。」



彼は下を向いたまま、手を握りしめていた。




私たちには理解できない感情が、いま彼を取り巻いているのだろう。

彼がとても不安定に見えて、何か言ってあげたかった。




だけど、彼の気持ちがわからない私にはかける言葉がなかったんだ。








実践練習の途中で10分間の休憩をとった時、彼は一人、練習場を抜けていった。








練習が再開して10分が経っても彼は帰ってこなかった。


「監督、探して来ます。」


私はそう告げて、練習場を後にした。






今彼の道は、目の前で途切れている。

あと1歩踏み出せば、落ちてしまうのかもしれない。


私には全部は理解できないだろう。

だけど、少しでもわかってあげたいと思うのは、おかしな事なのかな…?