肺に空気を取り込んで、勢いよく扉を開けた。


「ただいま!」


「あら?」


トドがいた。


間違えた。メタボな母さんが靴べらを使ってスニーカーを履いていた。


これから買い物に出かけるのか、化粧という仮面を被っている。


化粧は元来魔術の一種と聞いたことがあるが、母さんがすると本来の意味になりそうだから不思議だ。


年はとりたくないね。ほんと。


魔術師母さんは、目が点になって俺をボケーと見つめている。


あ、そっか。今の俺は―――


「えっと、その、なんだ? この制服にはふかーい意味があってだな」


十五年間、男として育てた息子が髪を伸ばしてスカートを穿いてたらショックを受けて当然だろう。