ゆきなは僕が働いていた広告代理店の新入社員だった。
清潔そうに後ろに束ねた長い髪。大きな瞳。小柄でスレンダーな容姿。
僕はゆきなに一目惚れをしていた。
そして、僕は数ヶ月後に会社を辞めた。

デザインの専門学校を卒業した僕は、実家には戻らず名古屋市内の中堅広告代理店に就職した。
部署は営業部。デザインの学校を卒業したとは言え、殆どを外注のスタッフで仕事をこなしているブローカーの様な広告代理店にとって、デザイナーの需要など大して無かったと言う事がわかった。そして自分にさしてデザイナーとしての才能が無いと言う事も。入社3年目から転職を考えだした。
入社4年目の春に、ゆきなは入社してきた。歓迎会で隣の席になった僕は彼女が『THEE MICHELLE GUN ELEPHANT』の事が好きだと言う事がわかった。
でも、わかっただけだった。

4月から僕の上司になった田伏は、考えうる限り最悪の上司であった。
他支店から転勤してきた田伏によって、結果的に僕の業務量は2倍に跳ね上がった。田伏は仕事が出来ない上に小言と女絡みの悪い噂が多かった。僕は24歳の誕生日を迎える前に会社を辞めた。