バンドは翌年の冬に解散した。
ケン以外のメンバーは夏に就職が決まっていたし、僕も何社か面接を受けていた最中だった。
結局の所、バンドで遊び続ける為に時間が取れそうに無くなったと言う事だ。
その当時、金髪から黒髪に戻しリクルート・スーツを着た僕に、ケンは笑いながら、そして少し寂しそうにいった。
「そっか、ユウスケも社会人になって行くんだな、 働いた給料から税金を払って、 大人になるって事か 」
僕が何も答えられずに居ると、ケンは天井を見上げて呟いた。
「でも、大人になるってどう言う事なんだろうな」

24歳の誕生日を迎えてからも、大人になると言う事がどう言う事かは解らなかった。
だけど、僕らはもう一度同じバンドでロックをやっている。
ケンは24歳になってもライダースでスパイキーだったし、
少なくとも僕らに理由は必要無かった。

相変わらずテレビ画面の中のモンスターと戦いながらケンは言った。
「でもオレ、その曲良い曲だと思うよ」
僕が面食らって居るとケンは、初めて会話をしたデッサンの授業の時の様に向き直り真顔で一言
「このゲーム貸してくれ」と言った。