ケンをバンドに誘ったのは僕だった。

ケンと僕は専門学校時代の同級生だった。
ケンは訳の解らない人間だ。
入学時から鋲付のライダースを着ていたし、常に髪の毛はスパイキーでガリガリに痩せていた。
早々にイラストレーションの教師に絡んでいるのを見て、田舎から一人で出て来たばかりの僕は、こいつとは出来るだけ係わらないようにしようと決心した。

入学から2週間がたったデッサンの授業で僕とケンは隣同士の席になっってしまった。
三角錐の石工の模型をデッサンしながらケンは僕に言った。
「この学校って絵を描く事が多いよね」
ケンは三角錐を見つめたままだったので、その問いかけが僕に対するものだと気づくのに時間が掛かった。
「デザインの学校だからじゃない」
戸惑いながら僕が答えると、初めて僕に向き直ると真顔で一言
「そうか」と言った。

ケンは何故かその後僕につきまとう様になった。
不思議だったが僕もケンと一緒にいる事が自然となっていた。
夏の前に僕はケンの作ったハードコア・バンドに誘われた。
初めてボーカリストとしてライブをやったのはその一週間後だった。
そして、その夏休み前にケンは学校を辞めた。

「なんかさ、デザインとかオレ興味ないわ」
「だったら最初から入学するなよ」
僕らは二人とも笑っていた。
明日どうなるかよりも、今いかに楽しく生きるのか。
18歳の男子はきっとそんな事を思っていたに違いない。
「次のスタジオ、遅れるなよ」
僕らの関係は、彼が学校を辞めた後も全く変わりが無かった。