裏サイトの件が広まったかは分からない。
 翌日、いつもと変わらない様子で某学園は放課後を迎えた。

「時枝ー」

 ホームルーム終了とほぼ同時に声を掛けられた茶髪の彼──時枝真澄(ときえだますみ)こそが、噂の人物である。
 校則の厳しい中等部では、髪を染めるなど言語道断。現在の中等部全学年を探しても茶髪の生徒は真澄のみだ。当然ながら、かなり目立つ。

「何」

 疑問符すら付かない言い様で尋ねた真澄は、クールとでもいうのか、一般生徒には近寄り難い雰囲気を纏っている。
 顔立ちも大人びており、二、三歳くらいならサバも読めそうだ。その顔立ちからして恐いと評する生徒が大半だが、同時に彼を美形だと認める生徒も同じくらいいるだろう。

「一条先輩、今日の部活来るって言ってたか?」

 偶に遊びに来る高等部の先輩について、クラスメイトの関が尋ねてきた。
 それに「らしいな」と真澄は短く答えた。そして「ただ」と付け加える。

「俺、今日部活行けないから」
「は? なんで?」

 関が珍しいモノでも見るかの様な表情で真澄を見る。実際彼が部活を休むことは少なく、珍しいのだ。

「あー……、ちょっと」

 真澄は言葉を濁す。
 それが余計に興味を引き、気にさせるのだ。部活を休む理由は何か、と。

 そんな時、クラスの女子が真澄を呼んだ。廊下で別のクラスの子が待ってる、と。
 真澄は自分を呼ぶ人物に心当たりがあるのだろう。手早く教科書を学校指定の鞄に詰め、廊下へと急いだ。

「真澄くん」

 自分を呼ぶ、聞き慣れた声だ。相変わらず落ち着いていて、耳に障らない声だと真澄は思う。
 現れた彼女こそが、噂の久米飛鳥(くめあすか)だ。