「協力的じゃいけないですか?」

若月先生は、笑いながらあたしに言った。


いいんだけどさ……。


でも、さっきみたいな母さんの態度が、一般の人の反応だったとしたら、若月先生は協力的すぎる。


「私は、医者ですよ。最初の頃にも言いましたが、患者さんの気持ちを優先したいんです。子供を産むと決めた人に中絶は勧められません」


だけど、初めに恭平を見た桜ヶ丘先生は、すごい剣幕で中絶を勧めてたよ。


今まで黙っていた恭平が口を開いた。

「そぅだな、大げさな言い方をすれば、俺達は取引をしたんだ」


トリヒキ?


「なんの?」

あたしは、恭平に聞き返す。

「俺達は、世間に知られないように、出産を成功させる。病院側は、ま、こんな体験初めてなわけだから、俺を実験台として、どこまで成功するか見守る。うまく、出産までいけば、学会にでも発表する気なんじゃねぇの?」


そんなっ!


「恭平をモルモット変わりにする気?」

あたしは、若月先生を睨んだ。

「樹理ちゃん。確かに及川さんの体は医学会の中ではとても魅力的だよ。わからないことだらけだからデータも確かに録ってはいる、だけど、私は別に及川さんをモルモット変わりにしているわけじゃない。私は、及川さんをイチ患者として接しているつもりだよ。それに、少なくても私は学会に発表するつもりは全くない」

「ホント?恭平を見せしめみたいにしない?約束できる?破ったら、あたし、若月先生を殺すからね」

その時のあたしはマジだった。

「約束するよ。殺されたら、私の人生後悔して終わってしまうからね」

恭平は、物騒なことは言うなって、言ったけど、その時のあたしは、恭平を守んなきゃって心の底から強く思っていた。

若月先生のことは、どこまで信用していいのかわかんなかったけど、今までのこともあるし、これからも助けてもらわないと生活していけないから、これ以上は何も言わないことにした。

母さんが眠っている間にタクシーを呼んで、さっさと家に帰ることにした。

恭平も、アパートへ戻ることにした。

あたしが重い思いしてタクシーの中から、玄関へ、玄関から、布団の上へ母さんを横にしても、母さんは一向に目を覚まさなかった。