「だから、聞いてるじゃないか。もしかして、樹理の妊娠ってのがドッキリなのかい?でも、手応えがなかったから、恭平さんに赤ちゃんがいるって?それは無理な話だよ。まぁったく、二人とも真剣な顔してるから何かと思えば、何暇してんだい、あんた達もっとおもしろいウソをもっといで」

母さんは、お茶をすすった。

「生憎だけど、ホントなの。月に一回はあたしも付き合って病院に行ってるんだよ。原因は全然わかんないけど、恭平に赤ちゃんがいることは確かなの」

母さんから、笑みが消えた。

「いいかげんにしなさいっ!どこにそんな馬鹿げた話しを信じる親がいますかっ」


やっぱり、怒るか……。


「恭平持って来た?」

あぁ、と恭平は鞄の中から、一冊の小さいノートを取り出した。

そこには『母子健康手帳』と書かれていた。

母の氏名

子の氏名

と、表紙には書かれていた。

母さんは、あたしと恭平を見比べると、恐る恐る手帳に手を伸ばした。

パラパラと中身を見ると、中にはまだ何も書かれていなかった。

母さんは、とても小さくホッとため息をつくと。

「何も書いてないじゃないの」

と言って、母子健康手帳をテーブルに置いた。

「そうです。書こうと思えば書けましたが、母の氏名の所で、僕の手が止まったんです。まさか、俺の名前を書くわけにはいきませんからね。だからといって、お母さんに相談もなしに、樹理の名前を書くわけにもいきませんし」

「なに言ってんのさ。妊娠してんのは樹理なんだろ?ホントの事を正直に言いなさいっ。一体誰が妊娠してんのっ!」

母さんが、イライラしているのが見て分かった。

「恭平」

「俺です」

母さんの質問に、二人で答える。

母さんは、テーブルをドンッとたたいた。

「二人とも、殴られたいのかい?母さんは、正直にって言ったんだよっ」

「恭平、無理だよ。あたし達が何言ったって分かんないよ、若月先生の所に行こ」

そう言って、あたしは、病院に今から行く連絡を入れた。