「……えっ!?」
「…あ?」
「今…葉凪って言った?」
その時初めて、俺は葉凪の名を呟いた事を知った。
「あ、その…」
「最低…っ、私がどんな気持ちで…っっ」
香はさっき俺に見せたストラップを握り締め泣き始めた。
「……」
何も言えなかった。
無意識に呼んでしまった事が、本当の気持ちだと気付いたから。
「葉凪って、風雅 葉凪…?」
乱れた制服を直しながら、香が尋ねる。
「…あぁ、知ってんのか?」
いつの間にか、香は泣き止んでいた。
「私の、親友」
ややこしくなりそうだと、直感した。
「……」
「何とか言ってよ!嘘つき!」
鮎はストラップを俺に投げつけ、走って消えた。
溜め息をつくと、辺りがひどく静かに感じられた。
何、やってんだ…ダセぇ。
何をどうすればいいのか分からず、俺はただその場にしゃがみ込む事しか出来なかった。
俺は知らない。
そんなダサい俺を祐樹が見てた事を。