「祐樹っ」
「無駄だよ!全部、無駄…っ」
泣き崩れる祐樹。
私は祐樹の背中を擦りながら落ち着かせた。
「違うよ、祐樹。…確かに私たちは何にも悪くない。でも、私たちがこのまま有耶無耶にしてちゃ駄目だよ。今、ここで逃げ出せば…祐樹はこれからも辛い思いをする事になる」
「…っ」
「私たちが一歩踏み出す為にも、堂々と向き合おう。ここに立ち止まってたって、何も変わらないから」
その時、一時間目の授業が始まるチャイムが鳴った。
それと同時に、祐樹が涙を拭いて立ち上がる。
「ありがとう、葉凪。僕…行くよ」
「本当?」
祐樹は顔を上げて、ニコッと笑った。
「葉凪と一緒だもんっ!」
その真っ直ぐな笑顔に、私は目を逸らせなかった。
「でも、やっぱり…ひとつお願いがあるんだけど…」
お願い…ですか。
「何?」
「ちゅー、して」
ちゅー…?
「は?」
「僕の唇に、キスしてよ。そしたら、決心つくから」
決心とキスに関係性はありませんけど!
「祐樹…それは…、さすがに」
「しないと僕、行かないっ」
ちょっ、この駄々っ子…どうにかして下さい。
「祐樹…さん」
「やだっ!」
どうやら祐樹は引かないらしい。
…仕方ない。
覚悟、決めますか。