【奈緒SIDE】
心臓がいつもの2倍くらいのスピードで動いてる。
あまりに速く動く心臓は、自分のものではないみたいに思えるほどだった。
極度の緊張を感じながら、……ゆっくりと亮の首元に近づいた。
きつすぎない香水の香りが広がる。
……抱き締められる時、いつも少しだけした香りはこれだったんだ。
亮の香り。
微かに香る亮の香水に包まれながら……目を閉じて亮の首筋に唇をつけた。
香りに、酔いそう……。
亮の3回のダメ出しの後、ようやくついたキスマークを見て、恥ずかしくなってうつむく。
「ほんっとにへたくそだな」
亮があたしの鏡で確認しながら言う。
「だって初めてなんだから仕方ないじゃん!
……亮みたいに慣れてないんだもん」
自分で言ってから落ち込んだ。
……亮、やっぱりこういうの慣れてるんだ。
1回でキスマークついたし、梓も言ってたもん。
『あの桜木先輩が、よく我慢してるね』って。『あの』って言ってた。
……でも、大丈夫。
あたしだってそのくらい知ってたもん。
亮の噂いっぱい知ってるもん……。
だけど、それは過去の事だし、今は関係ないんだから。
だから、落ち込まない。
そう思い込もうとして失敗する。
落ち込んでいったあたしを見てか、亮がなんでもないように言う。