【奈緒SIDE】


「あっ! あき……桜木さん! 休憩時間15分もオーバーですよ」


やっと従業員室から戻ってきた亮に、少し怒りながら近づく。

そして顔を見上げた後、小声で話しかけた。


「……大丈夫? 慣れない事してるから体調でも……んっ?!」


心配するあたしに、突然亮がキスを落とした。

ただ触れるだけのキスを。


「なに……亮?」


様子がいつもと違う気がして……亮を見つめる。


「わりぃ、寝てた」


亮は、背伸びをして少し笑って見せる。


「体調悪いの?」

「……まぁな。奈緒が濃厚なキスしてくれたら治るけど?」


意地悪な顔に、あたしは亮の胸を押す。

その手を離そうとした時、亮の手があたしの手を握り締めた。


顔を上げると、さっきとは違って真剣な表情をした亮があたしを見つめていて……不思議に思って呼びかけようとした時、ふっと笑った。


「……寝不足なだけだから気にすんな」


そう言って、あたしの頭を撫でて通り過ぎた。


いつも通りの意地悪。

いつも通りの笑顔。

いつも通りの声……。


……だけど、握られた手が震えてた。