奈緒は、外部性ショックによる記憶喪失が原因で、中学一年の時の記憶が一週間だけない。

その間の出来事は何一つ覚えてない。


佐伯が言う川口との出来事は、その一週間の間に起きた事で、

川口と付き合うって約束も、ナイフで脅された奈緒が無理やり頷かされたこと。


今の奈緒は……もちろん、その川口との出来事を覚えていない。


覚えていたところで、脅迫して取り付けた約束なんか、なんの言い訳にもならねぇけど……

それを知ったら、奈緒はきっと……。


自分を責めて泣く奈緒の顔が頭に浮かんで、手をきつく握り締める。


北村の報告を受けた時には半信半疑だったそのことが、まさか佐伯の言葉で事実だって証明されるなんて想像もしてなかった。



「……おまえ誰に聞いたんだよ」

「……あたし、実は川口のハトコなんだよね。

事件後に、親族の間で噂になったんだぁ」


脅すように言った俺に、佐伯がにっこりと笑う。