六月。曇は鉛色をしていてその色をそのまま街に映していた。
「六月はジメジメして気分も億劫になるからあまり好きじゃない。」
なんて言葉を結構僕は聞くけど、僕は六月は大好きだ。
どんよりした空気、傘を持って憂鬱そうな表情を浮かべ会社に向かう様子の社会人。
路地裏で眼が合った黒猫も何だか景色に合っている。
沈んだ世界を見ているようで僕は逆に気持ちがワクワクするのだ。
何だか今の時代のそのままを見ているようでおかしくなる。
夢も希望もない、不安だらけの世界。
あるのは上辺の笑顔、耐えられない孤独。
この世を客観視している僕からすれば面白い世の中になったと思う。
だからと言って世の中を良くしたいとも思わないし、染まる気もない。
...こんな事を考えながら僕は傘を持って街を歩いていた。
まだ雨は降りそうもない。
僕は傘が好きだ。
傘をさしていれば他人から顔を見られる心配もない。
僕は他人に顔を覚えられる事が嫌いだ。
記憶として人の頭の隅に残って欲しくない。
小学校の卒業文集には「透明人間になりたい。」って書いたぐらいなんだから。
何処までもひねくれている性格だと思う。