僕が年老いて同じような状況になったとき、同じように傘をさしてくれる人はいるのだろうか。
僕はそんな事を思いながらゆっくり、ゆっくりと冷たく、鉛色をした道を歩いて行った。
交差点に着いた所で雨もおさまり、老人は「ありがとう。」ともう一度言い残し、僕とは反対の道をまたゆっくり歩いて行った。
僕が帰るべき場所は家。
何故いつも同じ場所なのだろう。
妙に帰りたい気にはなれなかった。
僕の居場所。
考えれば考える程分からない。
だけどそれは僕だけなのだろうか?
独りが好きな分、たまに襲う寂しさは大きいように思う。
誰かに僕の疑問を聞いてもらいたくても、そんな人はいないし、明確な答えを知っている人もいるようには思えない。
僕は静かに玄関のドアを開け、静かに自分の部屋に行った。
窓越しから見える夜の闇はまた降りだした静かな雨に染められて深さが増しているようにも見える。
あの老人は無事に家に帰っただろうか。
明日も同じような雨に染められた街を僕は宛てもなくさまようのだろうか。
僕は一対何がしたいのだろうか。