耳を、抑えきれなかった。
「(お願い止めて)」
全て見透かされていて。
希望も、勇気も。
なにもかもを取られていて。
記憶が消えてしまうくらい。
もう、止めて。
『・・・ズルいよ、早瀬ちゃん』
ずっと頭のなかで響き渡る柴崎さんの声。
嫌い、大っ嫌い。
声が、出ない。
「もういい、私帰るから。涼によろしく言っといて」
そういうと柴崎さんはタオルを肩にかけて歩いていった。
・・・聞こえた。
柴崎さんが私の隣を通った時。
なんて言ったと思う?
無理にでも出そうと思った涙もひっこんだ言葉。
「―――――私、本気だよ」
こんな強い想い。
・・・駄目だ。
「じゃ、また明日早瀬ちゃん」
「・・・」
勝てるはず無いじゃないか。
「・・・っ(・・・涼)」
私、押されてる。
* * *
「・・・(ピラッ)」
昨日、途中までしか読んでいなかった本を読み続けた。
前から欲しくて欲しくて、でもどの本屋にもなかった。
やっと見つけて、嬉しいのを我慢して買った。
『手を繋げたら』
「・・・(ピラッ)」
ページをめくっていく。
・・・読むスピードが変わらない僕。
なぜこんな、タイトルからあからさまに恋愛モノの小説を選んで買ったのか。
「・・・(ピラッ)」
最初に立ち読みした三ページで共感した。
「・・・(ピラッ)」
高校二年にもなって、恋愛小説を読む事になるとは。
実際この僕も予想外だ。
—さかのぼった時間はあまりにも僕達には長過ぎていた。
それに気付いたのも何年も後の話で。
君にはかっこいい彼氏もいた。
「・・・(ピタッ)」
一瞬、手が止まった。