すり抜ける音。
なにも、聞こえないと願った。





『佐山くん』





それはまるで、昔から、私よりも昔から知っている様な呼び名だった。
そんな・・・

絶望の音色が聞こえる。

「・・・早瀬ちゃん?」

「・・・」

「・・・黙ってないで、ぶっちゃけどう思ってるの?」



柴崎さんの声は嫌いだ。



凄く明るくて、その明るさが逆に怖くて。
私の力が吸い取られてゆく。

「(そんな・・・)」

「・・・」

しばらく続く沈黙の中。

周りの陸上部の人達は消えていく。
冬の風が、私達を凍えさせた。

「・・・っ」

・・・言えない、そんな事。



簡単には、言えない。



「(ごめん涼・・・!)」

私は恥ずかしくて、悲しすぎて、下を向いた。
うっすらと涙がにじみ出てくる。

「・・・そうやって早瀬ちゃん、」

「・・・」

止められない鼓動。







「そうやって早瀬ちゃんは、『涼』に甘えるんだね―――――」







土足で入ってきた柴崎さん。
とまどう時間も与えてくれなかった。



息すらも、奪われる。



「あ、甘えるなんて・・・っ」

「だってそうでしょ?自分はなにも言わないで、人に任せて」



どくんっ



「一人になるのが怖くて」

嫌。

「人のせいにして」

止めて。



「それのどこが男前だっつーの?」



お願い。

「ゎ、私は・・・!!」

そんなつもり、ないよ。





「・・・ズルいよ、早瀬ちゃん」