「あ、ところで悠里。見ての通り楓は執事役なんだけどさ、時間あれば来なよ。俺は裏でひたすらお菓子作ってるんだけど、楓はずっと店で執事役やってるし、一応指名できるみたいだしさ」

この機会逃したらもう確実にみられないよ。

2人のために配慮した言葉を頭が見つけ出す前に、宏は難なくその場を繋いだ。自分のアピールなら作った菓子を食べに来いとだけ言えばいいものを、美月を俺で釣ろうとしているような言葉に少し違和感を感じたが、別段彼は自らをアピールする目的があったわけではないらしく、へらへらと笑っている。

「んー……勿論魅力的なんだけどね、なかなか空き時間ができないんだ」

私も宣伝にまわれば良かったな。

溜息混じりに汗を拭いながら、美月は苦笑した。露店には10人前後の人数しかいないらしく、他のクラスメートは皆宣伝や出し物巡りに行っているようだ。テントの奥で数人の男子がベンチで伸びているのが見える。俺もそう変わらない立場のため、沸々と同情の念が湧き出てきた。

「残念だな。せっかくの文化祭なのに」