「……はぁ」

壁にもたれ廊下から響いてくるざわめきに耳を傾けながら、俺は本日何回目かも定かでない深い溜め息をついた。

昨日夜遅くまで残って、どこぞのホテルかレストランのように見事に模様替えした教室は、最早日頃のクソ真面目な授業風景など跡形もない。

白いレースのカチューシャや、丈の長い正統派の清楚な黒のメイド服を着込み、食事を運ぶ女子。紅茶やらケーキやらをワゴンに乗せて、燕尾服を翻す男子。頭痛がする。

「こらっ。高橋君!一番人気の君が働いてくれなきゃ困りますっ」

「もうやめてくれ……」

溜め息ばかりをつく俺に、メイド服を着て忙しなく動いていたクラスメートの朝倉が小声でど突いてくる。しかし、なんでこんなに繁盛してるんだ?

高校生活最後の文化祭。俺達のクラスは朝倉をはじめとする女子の面々のほぼ強制に近いごり押しに負け、今流行りの……かどうかは知らないが、メイド喫茶をする事になった。

この高校の文化祭では、売り上げの一番多かったクラスが1ヶ月分の食券を校長から贈られる。そんな馬鹿げた賞品、弁当派の俺からすれば全く興味がないのだが、やはり小遣いの節約になるからと多くの生徒は体育祭並みの熱意で出し物に臨むのだ。そのお陰で、毎年ここらの地区では一番この高校の文化祭が盛り上がる。

売り上げを伸ばすためには客の幅を広げるのが何よりも重要。女性からも指示してもらえるようにと、執事喫茶も取り入れる事となり、俺を含む8人の男子が女子により選抜され執事役をする事になったのだ。