「でも、ダメだ。今日は一緒に帰るからな。何かがあってからじゃ遅いんだから」

「……大丈夫なのに」

「はいはい。じゃあ、お前んちに着くまでか弱い楓君を守って下さい」

我ながら訳の分からない事を言いながら、校門から動こうとしない美月の学生鞄の持ち手を掴み半ば引きずるように学校を後にした。彼女は俺の後ろでまだ何やら文句を言っている。

俺と宏が帰る道はそれなりに大きくて街灯も沢山あるが、美月の帰る道は暗い路地が多く、毎日こんな所を通っていて今までよく大丈夫だったなと驚くほどだった。

隣を歩く美月のペースにあわせて、ゆっくりと進む。美月が携帯につけた鈴が歩く度に鳴って、猫と散歩をしているような何とも可笑しな気分になる。本人曰く、軽く跳ぶだけでどこにあるか1発で分かって便利なんだそうだ。

「あのさ、高橋君」

「何?」

透明な美しさを持った鈴の音に耳を傾けて歩いていると、美月が唐突に俺のカッターシャツの袖口を掴んだ。振り向くとパッと手を離される。

「なんか最近、変わったよね」

いきなり何を言い出すんだ。彼女が静かにしていた間、一体どんな思考を巡らせていたのかと不思議になる。