けれど、正直……

「居ない場合を経験したことが無いからな、よく分からん」

「やっぱり?」

そう言って美月は笑った。彼女の笑顔は不思議な魔力を持っているように思う。微笑んだだけで場の雰囲気が柔らかくなるのは、凄い事だと思う。それは、白石先生とよく似ていた。

「でも1人っ子って、やっぱり寂しいかも。遊んだりできないし、親にできない相談とかもあるのに」

「例えば?」

「恋の相談とか?」

イタズラっぽく笑う彼女に自然と笑みが漏れた。上手く笑えているだろうか。少し彼女の頬に赤みがさした気がした。

閉館を告げるチャイムが鳴り響く。録音された放送部の生徒の声が、いつものように聞き慣れた台詞を紡いだ。早く出ないと、また見回りの教師や警備員にうるさく言われるかもしれない。特に、後者に。