「じゃあ、俺は帰るわ」

時計の針が6時ちょうどを指す頃、そう言って宏が立ち上がった。

「あれ?帰っちゃうの?」

「弟の誕生日会。あいつ俺に懐いてて、行かないと後々うるさいんだよ。」

「へぇー。弟さんねぇ」

机の上のプリントを丁寧に畳んで、クリアファイルに挟みリュックにしまうと、手を振りながら足早にドアまで歩いて教室を出て行った。

「何か、羨ましいなぁ」

「何が?」

器用にペンをクルクルと回しながら、宏が出て行ったドアを見て美月は呟いた。

「兄弟。私1人っ子なんだよねー……。私も、妹か弟欲しかったなぁ」

「へぇ、美月は兄弟いないのか。知らなかった」

その俺の言葉に美月は笑った。ドアから視線を外して、シャーペンを見つめている。

「だって、高橋君とそんな話にならないんだもん」

「そうか?」

「そうだよ。毎日会ってるけど、多分全然話してないし」

何で、そんなに悲しそうな顔をするんだよ。突然に色を変えた雰囲気のせいだろうか、なんて返して良いのかわからなくなって俺は俯いて問題を解くふりをした。