「途中で帰るんだろ?今日くらい我慢して化学を勉強しろよ」

俺のその言葉に渋々といった感じで頷いて、今度は俺が机に置いてあった参考書に目を通し始めた。ページを捲る毎にぐぇ、とか、うぇとか変な声が漏れ出ている。

「……来る」

俺が時計を見て呟いたのとほぼ同時だっただろうか。相変わらず騒音並に大きな音を立てて美月が飛び込んできた。彼女の場合、入ってきたというより、飛び込んできたという感じなのだ。

「たっかはっしくーん!やっほー!」

「聞こえてるから静かにしてくれ。なにがやっほー!だ、なにが」

毎日の事なので、教室に残って課題やら勉強やらをしている生徒も驚かなくなった。つくづく人間はすごいと思う。こんな騒音にまで無視を決め込むようになれるなんて。

「今日から隣の教室行くぞ」

「なんでー?」

にっこり笑ったまま小首を傾げる美月の頭を軽く拳骨で叩く。途端に宏が高らかと手を上げで、暴力反対!と叫んだ。

「お前等がうるさいから行くんだよ。邪魔になるだろうが」

「勉強してる間は静かじゃない」

「勉強に入るまでの2、30分はうるさい」

唇を尖らせてムスッとした表情の美月の背中を押してもと来たようにドアまで押しやって廊下に出させてから、荷物を持って俺と宏も教室を出る。

俺達3人が出ただけでシャーペンの立てる小さな音しか聞こえなくなる。やはり、勉強している者にとって迷惑極まりなかっただろう。これからは美月にも、隣の教室に来てもらうようにしよう、ふとそう考えた。

3つの机をくっつけて、俺が美月と宏の前に座る。家でコピーしてきた参考書の問題を二人に配り、俺は参考書を開く。

「今日、化学なんだ……」

プリントを見て美月も先程の宏と同じように顔をしかめた。