「バラは安くはないですからね。俺もなかなか手を出せません」

「でも、あれだね。カーネーションもこんなに一緒に生けたら、豪華に見えるよね」

そうですね。そう答えて白い花びらを深紅で縁取ったような模様の花に手を伸ばした。まだ新しいのか、それとも世話が行き届いているのか、とてもみずみずしい美しさを保っていて、元気そうだ。

「もしかして、名前とかわかったりする?」

「……この縁が赤いのが、アリア。白いのが、ホワイトキャンドル。これが、ライトピンクバーバラ。それと、グエンシーイエロー」

彼女は感心したように小さく息を吐いて、クスリと笑った。少し、むっとする。やっぱり教えなかった方が良かっただろうか。

俺の表情の変化に気が付いたのだろうか。彼女はごめんごめんと言って苦笑した。

「本当にすごいんだね。私なんて全然わからないのに」

「……別に大したこと無いですよ。よく、小さい時愛読書は百科事典で物凄い知識量の人とかがテレビで取り上げられたりするじゃないですか。それと同じですよ」

「キミの場合は愛読書が植物図鑑なだけで?」

クスクスと笑う彼女に、自分も笑顔で頷いた。

先程彼女が言っていた『なりたい自分』を念頭に置いておくこと、宏にも指摘されたが、多分俺はもっと表情を柔らかに、作りものでない笑顔で人と接する事が出来るようにならなければいけないのだろう。……出来ればそうなりたいと、思わないでもないし。

「笑顔の練習!」

思いついたように突然に大声を出した彼女に驚いて、思わず持っていたカップを落としそうになった。ざわざわとアールグレイの表面が波打つ。