俺は花が好きだ。小学生の頃、学校の通学路にある花屋で、色とりどりに咲いている花々を見るのがとても好きだった。

毎日飽きもせずに花屋に通い詰めていたため、店の主人の女性といつの間にか親しくなり、長い休みには何回かフラワーアレンジメントを教えて貰った。

気が付けば、俺の部屋の本棚は医療の本と同じぐらい花の本が占めるようになっていて、休みの日には花屋から何種類か買ってきて小さな花かごを作ってみたり、ドライフラワーにしてブーケを作ってみたり、はたまた庭に自分専用の花壇を作り、種や球根から育ててみたりと、かなり自分の小遣いもつぎ込んでしまっている。

自分の部屋はさることながら、リビングのテーブルや壁、柱などあらゆる場所が俺のフラワーアレンジメントで飾られている。

「……フラワーアレンジメントが趣味なんです。変でしょう?」

ぶんぶんと頭を強く左右に振って彼女は否定した。細くて長い髪の毛が肩を滑り落ちる。波打つ黒々と光るそれは、カーテンの隙間から漏れる光に輝いてとても綺麗だった。

「変じゃない変じゃない!すごいなぁ~びっくりした。スッゴく素敵な趣味じゃない。じゃあお花にも詳しいんだ?」

「ある程度は分かると思いますけど」

そう答えると、あの時屋上で見せたような好奇心が溢れている瞳をして立ち上がり、窓際に置いてある花瓶を持ってきた。

何種類ものカーネーションが色とりどりに生けられている。この時期はカーネーションが店によく出回るから、家にも幾つか置いてあったはずだ。

「カーネーション好きなんですか?」

「うん。カーネーションってひらひらしててフリルみたいで可愛いし、結構日持ちするから。……本当は、春だからバラもいっぱいあったんだけどお金が無理っぽくて、買えなかったんだよね」

そう言うと彼女は苦笑いをしてラングドシャに手を伸ばした。それにしても食べるペースが速い。俺の2倍か3倍くらいの速さでお菓子を口に運んでいる。