戸を開けると、昼休みで皆が食堂や中庭に出払うせいで数人しか教室には残ってはいなかった。

「おっ。帰ってきた帰ってきた。おかえり、楓」

椅子の背もたれを前にして俺の机に突っ伏していた親友の宏が、戸を開けた音で振り返る。

宏は中学からの付き合いで、高校に入ってからは同じバドミントン部で一緒に活動してきた。中学の時はあまり進んで話すような仲では無かったのだが、クラスも同じになり接点も増えたのでよく話すようになった。

なかなか周りと打ち解けられない自分とは違い、宏は所謂ムードメーカー的人種ですぐに新しい友達を作りクラスの人気者になったが、何故かそうなってからも俺の側にずっと居てくれている。高校でできた友人も殆どが宏繋がりで、俺が根暗ガリ勉男化しなかったのは九割方コイツのお陰だ。

宏はどうやら今日も俺が帰ってくるまで昼飯を食べずに待っていたらしい。パンやら飲み物やらが入ったビニール袋をガサガサと俺を急かすように揺らして、手招きをしてくる。

「どう?ちゃんと寝れたか?」

「………まぁな」

席について鞄から弁当箱を出し机に広げる。蓋を開けると相変わらずうんざりするぐらい凝ったおかず類が詰められていた。

うとうとしただけで大して寝れてもいないのだが、俺は肯定した。あの白石とかいうカウンセラーのせいでとても寝られる状況じゃなかったし、気分もあまりスッキリしなかったのだが。