「……」

「カウンセリング室。私、いつもそこに居るから、授業サボるなら来て?一緒にお話しましょう。おいしいお菓子もお茶も準備して、私キミのこと待ってるから」

明るい彼女の笑顔は、この青空よりもずっとずっと、俺の深い深いところに入り込んでくる。

あぁ、何故だろう……苦しい。

「……そうですか」

「うん。待ってるから」

ドアを開けるとほぼ同時に、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。騒がしさを取り戻した校舎は、彼女と二人だけの状態から解いてくれて、何故だかほっとしてしまう自分がいる。

「ねぇ、キミ!名前は?」

後ろから明るい声が飛んできて、俺の背中にぶつかった。俺は振り返らずに深く息を吸う。すぅっと肺に流れ込む大量の新鮮な酸素、少し気分が晴れた気がする。

「高橋。3-Aの高橋 楓」

背中越しにそう大声でそう言って、階段を降り始めるとすぐに俺は六階の廊下で人混みに飲み込まれた。なんだ。今、昼休みなのか。

人混みの流れに逆らって、宏達が待つ教室までの道を歩いた。途中挨拶をしてくる後輩達に、慣れきった愛想笑いをして答えながら。

「……メランコリック症候群、か」

最後に彼女が見せた俺には明るすぎる笑顔が脳裏にうかんできて、特に意味もなく小声でそう呟いた。

カウンセリング室、どこだっただろう?
調べておかなくては。

今度からはカウンセリング室が俺の逃げ場になりそうだから。