「にしても、久しぶりだな。最後にこうやって3人で駄弁ったの、いつだったっけ」

今まで本でも読んでいたのだろうか、兄さんの見慣れない眼鏡姿は妙に新鮮だった。無駄な爽やかさを振り撒くのは忘れずに眼鏡を外すと、どしりと慣れ親しんだ赤いソファに腰を下ろす。兄さんの定位置は、昔から俺の正面だと決まっていた。

「さあ、2年ぐらいは経ったんじゃないの?3人揃うなんて、本当に久しぶり」

食器類を洗い終わり、手を拭きながら、姉さんも腰を下ろす。姉さんの定位置は、昔から俺の右隣だ。小さく鈍い音を立てて沈むソファと、記憶していたよりも幾分か小さく見える姉さんの体。

永遠を疑わなかった幼い頃が、懐かしい。お揃いのマグカップに2人の分の紅茶も注ぎながら、俺はゆっくりと染み込む温かさを噛み締めた。

「いつまで出来るのかな。今度はいつぐらいになると思う?」

考えるだけ無駄な未来の質問を受けて、ぼんやりと想像しようとしても、霧がかかったように曖昧で不安定なイメージはすぐにかき消されていく。ああ、今まさに俺はモラトリアム人間だ。